「で、結局なにが言いたいの?」
提出した報告書に、こんな一言を返された経験はありませんか?
自分のなかでは、ちゃんと筋が通っているつもりだったのに、相手の頭には一ミリも届いていなかった。
多くの人は、ここで「自分は文章が下手だから」と片づけてしまいます。
でも、本当にそうでしょうか?
今回紹介する『理科系の作文技術』を読むと、伝わらない原因は文章の才能ではなく、もっと別のところにあったと気づかされるはず。
ざっくり内容
著者の木下是雄氏は、学習院大学の学長まで務めた物理学者です。
本書では、木下氏が研究者として論文を書き、理科系の学生たちに文章を教えてきた経験をもとに、伝わる文章の技術を解説しています。
扱う内容は、論文やレポートだけではありません。
書く前の準備、文章全体の組み立て方、段落や一文の整え方、事実と意見の分け方、手紙や説明書の書き分けまで幅広く手ほどきしてくれます。
「うまく書こうね」ではなく、「読み手に迷惑をかけるな」と指導されているような、訓練本のような本といえます。
じつは「理科系」じゃない人にこそ効く
この本のテーマになっているのは「理科系の仕事の文章」です。
そう聞くと「自分は理科系じゃないし、論文なんて書かないから関係ないや!」と思う人もいるかもしれません。
しかし、それだけで本書を読まないのはもったいない。
本書で扱われているのは、理系の人だけに必要な特殊な文章術ではありません。
著者は、理科系の仕事の文章を「読み手に必要なことを正確に届ける文章」として説明しています。
つまり、書き手のお気持ちを披露する文章ではないということです。
上司へのメール・商品の説明文・取引先への謝罪文・社内向け資料・Web記事・マニュアルなど、必要な情報を正確に届けなければならない文章は、日常のいたるところにあります。
- 何を伝えるべきか
- 何を省くべきか
- どの順番で書けば理解しやすいか
これは論文だけでなく、ほとんどの文章に当てはまることではないでしょうか?
むしろ、感覚でなんとなく書いてしまいがちな人ほど、この本の厳しさに一度しばかれたほうがいいのかもしれません。
私含め。
文章のうまさより「読み手に通じるか」がすべて
文章はうまく書ければOK!ではありません。
大切なのは、その文章が読み手に正確に通じるかどうかです。
その考え方がよく表れているのが、「事実と意見」の章です。
たとえば、ある商品について書くとします。
「この商品は使いやすい」は意見です。
一方で、「この商品は購入者アンケートで満足度90%を記録した」は事実です。
この「意見」「事実」が、文章の中で混ざると、こんなことが起こります↓
| 「購入者満足度90%を記録しているため、誰にとっても使いやすい商品です」 |
一見すると説得力があるように見えます。
しかし、満足度90%という数字だけでは、「誰にとっても使いやすい」とまでは言い切れません。
満足している理由は、価格かもしれません。
デザインかもしれません。
サポート対応かもしれません。
そこを確認しないまま「使いやすい」と結論づけると、事実を根拠にしているようで、実は書き手の判断が混ざった文章になります。
- 事実を書くなら、ぼかさず明確に書く
- 意見を書くなら、それが自分の判断であることを明らかにする
- 主観に依存する言葉を、事実のように紛れ込ませない
これは、商品紹介やレビュー記事、営業メール、報告書でも同じです。
事実と意見をきちんと分けるだけで、文章はかなり読みやすくなります。
本書の主張をまとめるなら、文章の値打ちは「書き手の手応え」ではなく、「読み手にどう届いたか」で決まるということです。
だからこそ、文章を書くときは「うまく見えるか」よりも、「正しく伝わるか」を考える必要があるのです。
この本で得られる気づき
とくに参考になったのが、「パラグラフ」の考え方です。
パラグラフとは、ひとつの小さな話題について、ひとつのことだけを言う文のかたまりです。
そして、パラグラフの先頭には、段落の要約となる「トピックセンテンス」を置きます。

ようは「各段落の一文目だけ読めば、全体像がわかるように書こうね☆」ということです。
- 段落ごとに話題が整理されているか
- 一文目で要点が見えるか
- 前の段落と次の段落が自然につながっているか
このあたりを守っていないと、読みにくい・頭に入ってこない文章になってしまうので注意が必要です。
もうひとつ刺さったのが「読み手がまず知りたいことから書け」という考え方です。
たとえば、会議やプレゼンでこんな始め方をされたらどうでしょうか。
「まず、今回の背景から説明します」
「次に、これまでの経緯を整理します」
どちらのパターンも、きっと周囲は「はよ結論から言って」と思うはず。
このように、結論を後回しで、経緯や背景から順に語っていくような文章を、著者は「逆茂木型」と呼んで戒めます。
逆茂木型とは、敵の侵入を防ぐために枝を外向きに組んだ柵のことです。
本書では、前置きが長く、読み手が何度も立ち止まらされる文章を、この逆茂木になぞらえています。
書き手の思考の散歩道に、読み手をわざわざ付き合わせるな、ということですね。
この本のおすすめポイント
Web記事を書く人間として、とくに刺さった点は3つです。
①重点先行主義|内容の重心を文章の前に置け
新聞記事のリード文のように、最初の数行で読む理由を示すという考え方です。
ブログも同じで、冒頭で読む理由が見えなければ、読者は数秒で離脱してしまいます。
Webライターの実務にも、そのまま応用できる部分です。
②概観から細部へ
細かい目印を順に並べる説明よりも、まず方角と距離で全体像を渡す説明のほうが、相手は安心してついてこられるという話です。
記事でいえば、冒頭で「これを読むと何がわかるか」を先に見せること。
リード文や見出し設計は、まさにこの考え方の実践です。
読者は、いま自分がどこを読んでいるのかがわからなくなると離脱してしまいます。
③はっきり言い切る姿勢
「〜と思われる」「〜ではないだろうか」といった逃げ腰の表現は、ライターとして仕事をしていても、クライアントから修正されやすい表現です。
理由はシンプルで、読み手に判断を預けてしまうから。
根拠を確認せずに語尾だけをぼかしているなら、それは慎重さではなく逃げです。
読者からすれば、「結局どうなの?」と感じるでしょう。
ぼかしたほうが安全に見えて、実は読者の信頼をこぼしているのです。
もちろん、言い切るには事実の裏づけが必要ですが、そこを面倒がらずに確認することが、よい文章を書くための土台になります。
遠回りに見えて、それが読み手の信頼を得るいちばんの近道なのだと思います。
まとめ|文章は届いてこそ意味がある
「書いた」と「届いた」のあいだには、自分では見えにくい谷があります。
本書は、伝わる文章と、伝わったつもりの文章を分ける境界線を、厳しく教えてくれる本です。
白状すると、僕自身、この本の教えに全部は従えていません。
こうやってレビューやブログを書いている時点で、「心情は排せ」という原則からは盛大にはみ出していますしね...
それでも、一度この本を読んでおく意味は大きいと思います。
仕事で削ぎ落とすべきものや、人に届けるためにあえて残すべきもの。
その線を、自分で引けるようになるからです。
文章を書くすべての人に、届いてほしいこの1冊。
最近のXは事実と意見の境目を分けられていない人が多いですね。いけない、意見を事実っぽく語ってしまいましたね。